カワサキZの源流と軌跡

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半年以上前に購入した本をようやく読み終えました。旧車好きの御多分に洩れず、こういった初期開発物や系譜物の書籍が好みです。

その表紙とタイトルからも想像がつく通り、カワサキZ1こと、900 Super fourの開発に携わった方達のエピソードが部門ごとに章立てて綴られた本です。
カワサキZは人気車種だけあって様々な書籍が出版されてますが、実際に開発に携わった複数の関係者が執筆している本は多くないのではないかと思います。また、書籍から得られる情報に対する考え方はいろいろありますが、情報源として開発者本人が述べたもの以上のものは無いと考えます。

名車の誕生を体感するには歴史的な背景も理解する必要がありますが、その辺りの記述が当事者達ならではのリアリティを以って書かれています。
第二次大戦後、航空機の製造開発ができなくなった川崎重工は二輪業界へ参入していきます。当時は戦後の国家政策も後押しし、日本国内は二輪メーカーが乱立しており、開発スピードと販路の拡大、製品の信頼性が重要とされていました。

そんな中、元大日本機械工業の有志で結成された川崎二輪事業の全身である川崎明発工業は、その存在感を大きくできず事業の存続が危うくなる場面もあるのですが、目黒製作所の買収で息を吹き返します。さらにメグロから引き継いだ技術と車両、持ち前の2ストロークエンジン性能を武器に北米へ進出し、業界でのプレゼンス向上を目指したわけですが…。

このような背景のもと、当時のビジネス面についてマネジメントをされた方の章から始まります。Z1以前の時代背景、川崎重工としての背景が読み取れ、ここまでカワサキが二輪業界で辛酸を舐めていた様子が細かく描写されていました。

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会社トップによってZ1の開発がスタートする決断が下された以降は各技術者や、テストライダーの方が担当される章になっていきます。その中でも特に印象深く、項数も割かれていたのがデザイン開発に関する章でした。

Z1のデザインは「3Sコンセプト(SLIM, SLEEK&SEXY)」と呼ばれた軸に基づき、細部まで拘られて開発されていました。現在も「Z2ミラー」と呼ばれるあのバックミラーもこの時に設計されたものです。当時デザインを任されていた多田憲正氏は幾度も試行錯誤を繰り返し、ついにアメリカの主要メンバーから賞賛される車両デザインに漕ぎ着けます。氏の言葉では「私の人生の中で、今ほど最高の幸せ者はいない(7章 p.70)」と記載されていますが、そこまでの各章を読み進めてくると、自分も当事者であるかのように気分が高揚してしまいました。

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現在もZ900RSの販売とともに世界的に高い人気を誇るカワサキZ、その誕生には多くの美学と苦労が凝縮されていました。街中を流すだけでも、サーキットを走らせても多くの視線を集める魅力の源泉をあたるに最適な一冊であると感じました。

カワサキZシリーズのファンはもちろんのこと、この時代背景に興味のあるオートバイファンであれば、紙面から伝わる熱量に目頭が熱くなるかもしれません?

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