最高の夜が明けて、このツーリングも4日目。いつまでもこのまま走っていたい気持ちの一方で、離れた家族と日常が気になり始める頃です。
昨日までの余韻を確認するように片付けをして、近くのコンビニで雑談しながらの食事は朝食なのか昼食なのか分からない時間になっていました。何日間も最高の旅を共にすると解散を切り出すのもなかなか難しくなるものです。
東京に帰る私とXくん、大阪に帰るJくんと突き当たったのは、謀ったように西と東に分岐する丁字路でした。いい歳した大人が友達と別れるのに寂しいだなんて変な話に聞こえるかもしれませんが、これは三人ともそうだったと思います。
「じゃあな!気をつけろよ!」と張り気味の声で言い合った後、インカムが通信圏外になるとしんみりしてしまいます。やはり道具は便利なだけじゃないですね。
渥美半島から国道1号に合流したら、あとはこの道だけで東京まで帰れてしまいます。帰りたいような、まだ帰りたくないような微妙な気分で右手に太平洋、左手に浜名湖を渡り、その後もバイパスされた立派な道路をひたすら東に進みました。
すっかり昼食のことが抜けていました。折角きれいな海を眺めながら走ってるんだ、焼津まで行ったら何かうまいものあるだろう、と潮風を浴びていると焼津を通り越して清水に来てしまいました。焼津は漁業港、清水は工業港…?
ちょくちょく残念ポイントのある今回のツーリング、嫌な予感がしましたが、海なし県民の寿司への情熱は具合良くショッピングモールの寿司ミュージアムを手繰り寄せました。昼食なのか夕食なのかわからない胃袋に青物の握りが沁みました。
洗っても洗っても取れない焚き火の匂いが気になりつつも、お土産を調達しつつ残りの東名を攻略しましょう。日中は初夏を思わせた陽気も、陽が落ちると気が変わったように肌寒くなります。大和付近のオレンジ色が消えた交通情報を横目で確認し、上着を一枚着込んで出発しました。
ここまで来ればあとは無事に帰る事だけを考えて走るのみです。疲れが出たのか、旅の終わりを惜しむのか、すっかり通信量の減ったインカムからXくんの声。
「おーいテールランプ消えてるぞー!」
「こんなところで切れるのかよ!テールは替え持ってないや」
「俺持ってるよ!」
持つべきものは準備に余念のない仲間ですね。幸いにもW数も同じだったので好意に甘えることにしました。お返しは次の酒でいいかな?
数年ぶりのロングツーリング、1970年代の旧車での初めてのツーリングでした。不安もありましたが、この4日間はしゃぎ回る私の気持ちを代弁するかのように気持ちよく走ってくれたW1SAには感謝しかありません。やっぱりWは最高のオートバイです。
「400kmを越える頃、魂の浄化が始まる」のような言葉がありましたが、心身ともにリフレッシュされるには丁度1000マイル(≒1600km)の距離が必要だったようです。
また、これまでロングツーリングは一人で走ることばかりだったこともあり「一人で走ってこそ」と思っていました。しかし今回のツーリングでは気心の知れた仲間がいることで、その満足度は別物になることがよくわかりました。ただ、誰とでもいい、何人でもいい、というわけではないでしょうからその辺は難しいところですが、今回の3人は絶妙なバランスでフィットしていたと思います。
「また来年もやろうぜ!」と明日の約束をする小学生のように、それぞれ帰路につきました。でも来年はそれぞれの生活が変わっているかもしれませんし、また同じように集まって走れる保証はありません。環境が変わっても年に一度のツーリングを目標にオートバイを楽しみ続ける、そんなのも素敵だな、と思い、この道中を共に走ってくれたWを車庫に入れました。